仮面ライダー響鬼・異伝=明日への夢=

仮面ライダー響鬼のオリジナル小説
= 告 =
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追悼 「神戸みゆきさん」 へ 

久しぶりの更新がこんな形で行われようとは……

響鬼ファンの方なら、もうご存知のことでしょう。

「響鬼」で日菜佳役として活躍なさっていた、神戸みゆきさんが、去る6月18日に亡くなっていたことが、サンケイスポーツで報じられました。

弱冠24歳

夭逝というには余りに早すぎる人生でした。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080621-00000049-sanspo-ent

未だ響鬼にこだわる者として、神戸みゆきさんのご冥福を、心からお祈りいたします。


黙祷
[ 2008/06/25 22:24 ] 雑記雑文 | TB(0) | CM(0)

弐 「闇の中の響き」 

此処はドコだろう。

まるで夢現(ゆめうつつ)の中を彷徨っている。
そんな思いに囚われながらも、足取り重く、只歩み続けていた。

胸が苦しい。
足に力が入らない。

ただ胸を押さえて、暗く長く続く道を息も切れ切れに歩いていく。
何故それでも歩みを止めないのか。 それはヒビキ自身にも分らなかった。

何かに誘われるように。
何かに急き立てられるように。
ただ、苦しさに耐えながら歩みを進めていく、

(俺もトシかなぁ)

そうやって歩み続けながら、ヒビキは呑気にそんなことを考えていた。

自分がどこを歩いているのか、それすら知らずに。
苦しさに耐えながら、何故歩みを進めていくのかも分らずに。

そもそも、この道は何処に続いているのだろう。


ひどく 現実感が無い。


まるで険しい山河を上り詰めているような気もするし、平坦な道の様な気もする。
それに踏みしめる道の感触が、はっきりとした「確かさ」に欠けている。

と、言うより、足の感覚が麻痺しているような感触だ。

ただ、自分が向かっているその先には、安息の場所があるような、そんな漠然とした想いがある。
だがその場所に行けば、二度と「戻れない」
そんな確信めいた不安感も同時に存在している。

ただ、不思議と歩みを止めようとする気持ちがしない。
奇妙なことに、そんな考え自体が、今のヒビキは思いつかなかった。

心の臓が悲鳴を上げ、息も上がっているのにである。

ただ、今ぼんやりと頭にあるのが、この妙な疲労感への苛立ちと違和感。
それが「トシを取った」という、至極平凡な言葉として、ヒビキの頭の中でたゆたっている。



どれだけ歩いただろう。

一時間?

三時間?

それとも、まだ数分しかたっていないのか。

──時間感覚が失われているなと、それを認識出来る程度には頭は働いている。
逆に言えば、その程度しか今のヒビキには思考力がなくなっている。

(……やっぱ、疲れてるなぁ)

そう思いながらも足は本人の意思とはお構い無しに、前へ 前へと進んでいた。

そう言えば10代の頃『鬼』の修行をしている時、山野行の修練でこんな事が有ったっけ。
あん時はもっと気合で前に進めたんだけどなぁ。

まだ30代半ばなのだから、それほど体力が落ちているとは思いたくないのだが。
どうにもらしくない。
体力の低下など、今まで考えたことも実感したことも無かったのに。


そんな時だった。

その人物のシルエットが、遠くに見えたのは。

ヒビキは痛む心臓と、笑う膝を気合で押さえ込んで、その人物に近寄っていった。

そしてそこには──


「あれ? ザンキさん。 なんでこんなトコに?」

そこには彼がよく知る、切れ長の目をした友の姿があった。

ヒビキの前に居るザンキは、彼が知る人好きのする笑顔を浮かべてそこに佇んでいる。

「そりゃ俺の台詞だ。 お前、なんでこんなトコに居る?」

「なんでって……」

その時になって、ヒビキはようやく自分が居る場所を見渡した。




全てが闇に包まれた──そう 此処は生と死の狭間だ。
自分が歩んできたこの道は黄泉路。
「死」へと向かう、死者への道。

何故だ分らないが、唐突に理解した。

此処には「音」が無い

此処には「響き」がまるで無い

命あるもの達の「響き」が感じられないのだ。

(俺、死んだのか?)

でも何故?

そこまで考えた時、ヒビキの記憶の堰があふれ出した。

ザンキの墓参に来て、そして妙な『鬼』モドキと戦って、そしてその後──

「!」

それは長年の経験がなせる技だった。

いきなりヒビキに襲いかかってきた冷たい殺気を、咄嗟に体が反応してかわしていた。

だが、それを完全にかわすことは出来ない。
力の無い足がもつれて、倒れた体が大地の上を転げていく。

それでも、ヒビキは片膝をつきながら体勢を立て直して、殺気が放たれた方を向いた。


そこには抜き身の剣を構えた、冷徹な表情のザンキの姿がある。

(違う)

今、ヒビキははっきり思い出した。
『鬼』モドキを倒した後に現れた、漆黒の仮面の『鬼』のことを。
そしてその仮面の下にあった、友と同じ顔の男のことを。

男はすでに左腕の上に剣を滑らせて、腰だめの姿勢でヒビキにその剣の切っ先を向けている。
次に来るのは「突き」だ。
それも神速の。

ヒビキは腰から音角を取り出して身構えた。

相手の隙をうかがうように、息を殺して相手の一挙一投足に集中する。

続く刹那の斬撃。
それを音角で払うと、受け流した衝撃で澄んだ音を放つ音角を額に当てた。


だが


(変身できない?!)

それどころか『鬼』の力が全身を蹂躙し、心の臓に激痛が走る。
その痛みに、思わず片膝をついてしまった。

そして真上から繰り出される3度目の斬撃。

(かわせない)

その剣が振り下ろされた時、ヒビキの視界が真っ赤に染まる。

それと同時に、金属と金属が激しくぶつかる音が聞こえた──





波の音と潮の香り。

そしてその波の音に調和するような、鈴の音が聞こえてくる。

リーン…

リィーン……


ヒビキの視界が、ゆっくりと赤い闇から開放されていく。

そこは、海だった。
ゴツゴツとした岩肌。ヒビキはいつの間にかそこに立っていた。

今目の前に、あの男は居ない。

ただ、自然の営みを感じさせる様々な「響き」と、それに調和するかのような清らかな鈴の音が聞こえてくる。

なぜか懐かしい、心地よい澄んだ音色。

そして、今ヒビキが立っている場所。
見覚えがあった。

(……屋久島の海だ)

明日夢と出会った、あの場所。
一度は分かれたが、あの時明日夢は彼を追ってきた。

あの頃はまだあどけない、マシュマロみたいな子だったっけ。

海の向こう、広大な水平線に、赤い太陽が昇ってきている。
あの日、あの時と同じように。

先ほどの緊張感もどこへやら、ヒビキは穏やかな気持ちでその朝日に魅入っていた。

その時

その朝日に照らされて、小柄な人影が見えた。
朝日の逆光でよく見えなかったが、その両手にはまるでナタのような無骨な短刀を携えている。

そして、頭に二本の角を備えた、その異様なシルエット。


『鬼』

その『鬼』は、静かな鈴の音を発しながら、ヒビキに背を向けて昇る朝日を見つめていた。
まるで祈るかのように。
まるで祝福するかのように。

そして、その『鬼』はの暁を背にしてゆっくりとヒビキに近寄ってきた。
敵意は、全く感じられない。
それどころか、先ほどとは違った胸の痛みと、愛おしさがこみ上げてくる。

誰だ

いや ──そうだ

知っている。

俺は、あの『鬼』を知っている。

剣を収め、その『鬼』はゆっくりとヒビキに近づいてきた。
そして、朝日よりもなおまぶしい輝きが顔から放たれる。

そして現れたその素顔は──

そこで、ヒビキの意識は途絶えた。






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[ 2008/03/22 06:34 ] 『来たる稀人』篇 | TB(0) | CM(0)

壱 「闇より出でしモノ」 

某所

 仄暗く、暗く淀んだ空気を孕んだその場所で、1人の男が肉を食んでいた。
 血の滴る生肉を手掴み、貪るように咀嚼している。

 見ようによっては端正な顔立ちは無償髭で覆い隠され、クセッ気のある髪は乱れて、男に狂気じみた異様な雰囲気を与えていた。何よりもその双眸には淀んだ暗い輝きが宿り、見るものに嫌悪感を抱かせるには充分だった。

 異様な この世ならざる狂気を孕んだ男
 その男を表現するのに他の言葉は無い。

「…ぺっ!」

 男は突然咀嚼していた生肉を吐き出し、残った肉を床に投げ捨てた。

「まじぃ…」

 男は忌々しげにつぶやき、投げ捨てた肉を踏みにじる。何の肉は分からないが、その男の口には合わなかったようだ。

 いや

 それを美味いと感じられないのは、今男の中に淀んでいる暗い妄執と憤りのせいだろうか。

 あの時、「あの男」の制止がなければ、今頃この手の中には欲して得られなかった「アレ」が手に入っていたはずなのだ。
 それが男の妄執に拍車を掛けていた。
 血の滴る肉も、その妄執への渇望を満たしてはくれない。

「荒れているな 闇鬼」

「…あんたか」

 闇鬼と呼ばれたその男は、暗くねめつけるような視線をその男に向けた。
 そこには彼を黄泉返らせ、支配下に置いている「男」の姿があった。

 鋭い眼、鋼を鏨(たがね)で削り取ったような精悍で刃のような風貌の男。
 かつて彼が憎み、妬心を抱いていた「あの男」に良く似た、日本刀を思わせる佇まいの男が。

「あんたは目的を果たしたんだろうが、こちとらあんたのお陰で不完全燃焼もいいとこだ。
 これでご機嫌でいろってのはムシのいい話だと思うがぁ?」

「当然だな」

 にべも無く答えるその男に、闇鬼は憤りを増した。ゆらりと立ち上がって、男の顔を下から下卑た視線でねめつける。

「言っとくけどなぁ」

闇鬼と呼ばれた男はまるでチンピラのように男に絡んだ。

「生き返らせてくれた礼はするが、あんたの下についたつもりはないぜ?
 俺はよ」

「別に恩義を感じる必要も無いし、お前に忠義や友愛など期待してはいない」

 そんな言葉にも全く感情を見せない男は、さらに非情とも言える言葉を継いだ。

「お前を蘇らせたのは、俺の都合だ。
 ただ単に死んで間もなく、怨念の強かった貴様を反魂の術で蘇らせられるかどうかを試したに過ぎんのだからな。
 ──まぁ、いってみれば実験台というわけだ」

 その言葉を聴いて、闇鬼の唇と体がおこりのように震え、その双眸が怒りと狂気で見開かれる。

「恨んでも構わん…
 が、お前も黄泉返った以上は遣り残した事もあるんじゃないのか?」

 重苦しい、永劫にも似たしばしの時間、二人の男は睨み合った。
 だが、それもあっけないほどわずかな時簡に終わる。先に、沈黙に耐えかねたのは闇鬼の方だった

「…そりゃ、勝手にやってもいいって意味か」

「そうとってもらっても構わん。
 最低こちらの要望を聞いてくれるうちは、だがな」

「魚心あれば水心ってやつか」

 その言葉に、闇鬼はサメのような笑みを浮かべてようやく矛先を収めた。
 ように見えた──が

「!」

 不意に闇鬼の両の手が閃き、その輝く軌跡が男の首に吸い込まれていく。

 だが

 ガキッ!

 男は微動だにせず、ただそこに立っていた。
 ただその眼前、数寸先に闇鬼の武器を阻む「棍」が「男」を守るように突き出されている。

「邪鬼さんに、それ以上の無礼は許しません」

その「棍」が突き出された闇の中から、静かな、そして勝気そうな少女の声が聞こえた。

「てめぇ…殺鬼(サツキ)」

 いつからそこに居たのか。 
 さらりとした黒髪を思い切り良く短く切り、幼さの残る、しかし強い意志を感じさせる顔立ちの少女の姿があった。その姿はまるで少年を思わせる、凛とした鋭くまっすぐな気迫に満ちている。
 少女は軽く手首を捻ると、闇鬼の両手にある楽器とも刀剣ともつかない武器を跳ね除けた。そして邪鬼を守るように間に入り込み、棍の切っ先を闇鬼の鼻面に突きつける。
 その棍の先には椿色をした、鬼の顔を掘り込んだ透明な石がつけられていた。

「それ以上邪鬼さんに、はむかうようなら…」

 サツキとよばれた少女はなおもその切っ先を闇鬼に突きつけた。
 その声には明らかな憤りと、なにより深く清らかな殺意がこめられている。 

 本気 だった。

 挑発するように身構えながらも、少女静かな気迫に気おされるように闇鬼は後ずさった。
 その姿に、暗がりの中から忍ぶようないくつもの笑い声が部屋の中を満たしていく。

「それまでにしておけ。
 闇鬼も充分肝が冷えただろう」

 邪鬼は微かに苦笑してサツキの肩を叩いた。
 その言葉に、サツキはしぶしぶ武器の切っ先を引く。

「俺はお前たちに忠誠心や友情を期待しているわけじゃない。
 ……貴様らの無念や残念が、俺にとって必要なだけだ」

「……つまり、私たちは貴方の道具だと?」

 薄暗がりの中から、また別の声が聞こえる。
 それは若く、この闇の中には似つかわしくない、穏やかな女性の声に聞こえた。

「そう思ってもらっても構わんし、お前達も俺を利用して本懐を遂げようとしても一向に構わん。
 むしろ俺は求めている。お前たちのその『怨念』を。 
 その為に俺は生き延び、お前たちを黄泉返らせた」

 闇の中からざわめきが木霊した。
 どうやらこの部屋には他にも数人のモノがいるようだ。

「そうだ──俺がお前たちを蘇らせ、『やつら』と手を組んだ理由は一つ」

 邪鬼の言葉に再び耳が痛くなるほどの静寂が満ちる。

「俺は、猛士を滅ぼす」

 微かに、息を呑む気配がした。

「猛士は変わり、鬼達の力は衰える一方だ。
 先人の技は失われ、鬼たちの後継となる者もいなくなりつつある。
 俺はこの60年余、その様を見続けてきた──
 もはや、今の猛士に──『鬼』たちに魔化魍を抑える力はない」

「だから……潰す、と?」

 女の声に僅かに間をおいて、邪鬼は首肯した。

「俺はやつらを滅ぼし、新しい組織を作る。
 そして──次代を担う新たな『鬼』を作り上げる」

    ・・・・・
『鬼』を作り上げる!

 その言葉を、闇の中のモノ達は粛として聞き入った。

「だがそれは今ではない。
 まだ、今は動くときではない」

 しわぶきひとつたてず、その闇の中のモノ達は邪鬼の言葉を聞き続ける。

「だが…それもそう先のことじゃない。
 ──二人とも、来い」

 邪鬼に促されるように、彼の背後から小柄な二つの影がすぅっと現れた。
 まだ10代と思しき、二人の少年・少女。

「この子達は…?」

「まさか、例の実験がとうとう成功したのか」

「そうだ」

 邪鬼は穏やかな視線で背後の二人に視線を送った。

「この二人が猛士を滅ぼし、新たな鬼の時代を築く鍵となる」

 疑惑と感嘆と興味と嫌悪
 様々な視線が注がれる中、明日夢とひとみは無表情にそこに立っていた。
 だが、邪鬼はそんな視線の一つ一つに目を向けてそれを制した。

「お前たちはまず、『この時代』に慣れるため外に出て今の日本を見てくるといい。
 その上で、俺に協力するかどうかを決めてくれ。
 今の日本が──猛士がどう変わったか。
 その再び得た命で、見極めてくると良い」

「もし、私たちが貴方に賛同しないと言ったら?」

 邪鬼はその言葉に、瞬き一つせず答えた。

「それはそれで構わん。
 お前たちの内にある『怨念』もまた、俺の目的に必要だからな。
 その『怨念』があるだけで、それが俺の目的の糧となる」

 そう言って、邪鬼は明日夢とひとみの背に手をやって、その場から背を向けた。
 そして、染み渡るような声で呟く。

「──それに、お前たちも気がついているはずだ
 鬼であって『鬼』では無い。
 己の中の『鬼』を殺して鬼となる、その矛盾にな」

 そう言い残して、邪鬼は二人を伴い闇の中に消えた。
 そして、邪鬼に続くように、闇の中かから気配が一つ、また一つと消えていく。


 後には、己が投げ捨てた肉片をじっとねめつける闇鬼だけが残った。

 くっ

 くくくっ……

 闇鬼の口元に、再びサメの様な笑みが浮かぶ。

「……分ってるじゃねぇか、邪鬼の旦那」

 そうだ

『鬼』は『鬼』以外の何者でもない。

『鬼』でありながら『人』で有ろうとする事が矛盾なのだ。

『鬼』は本来、禍津神(まがつかみ)

──人に忌まれた『神』にほかならぬ。


 闇鬼は肉片を靴底で踏みにじり、闇の中へと消えていった。


──後には、重苦しい静寂だけが残った。





 
[ 2008/01/26 21:07 ] 『来たる稀人』篇 | TB(0) | CM(2)

二年前のこの日 「その男は天に逝った」 

今宵聖なる日。
でも響鬼ファンには、また別の意味合いを持つ日でもあります。

2005年12月25日
この日は──あの『鬼』が
邪を斬る『鬼』

そう 斬鬼さんが散華した日です。

愛弟子を守って、優しさをその肩に遺して、風と共に天に去っていったあの人の最後の日。

そう言えば昨日のレンタルマギカでも薀蓄があったんですが、クリスマスの意味合いと言うのは国や宗教によって様々なんですが、日本で言う「お盆」
すなわち他界した人たちを向かえ、また天に送る儀式でもあったそうで?(←うろ覚え

そういう意味では、今日と言う日は有る意味相応しいのかとも思ったり。

いや松田さんはお元気で新作映画で活躍中なんですが

では、響鬼ファンとしてこっそり斬鬼さんを偲びつつ……

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[ 2007/12/25 21:01 ] 雑記雑文 | TB(0) | CM(0)

『来たる稀人』 序 「天に輝く月」 

月が青い

少年はその月に向かって手をかざしてみる。
異形と化した 白く、そして赤黒い血に染まったその手を。

「なにやってんだ? お前」

背中越しに、少年の声が届いた。
彼に背中を預けた、同じく白銀の異形の姿に端麗な顔立ちの少年が、荒い息をつきながら彼に問うていた。

「いや……
 手が、届かないかな って」

「何に?」

「月に」

背中合わせに座り込み、互いに背を預けあっている少年二人は、そろって天空に冴え冴えと輝く月を仰いだ。

「……届かなかったな」

白銀の少年が鼻を鳴らして、僅かな苛立ちと労りを含んだ声で答える。

「うん
 届かなかった」

腕が疲労に耐えかねて、だらりと落ちた。

二人の周囲には、かつて異形の群れだったものの「残骸」が枯れ草のように重なり合っていた。
だがその「残骸」も今では異臭を放ちながら自然へと帰っていく。
ただ、怨嗟と死闘で傷つけられた木々と大地の他は。

数刻前までの修羅場がまるで幻であったかのように。
疲れて、麻痺した頭にはそれが現実として捉えきれず、自分が何をしていたのかさえおぼろげだった。

切り裂き 噛み付き 打ち砕き

そうやって必死に差し伸べた手から、またしても「彼女」はすり抜けて行き、月光の中に消えていったのだ。

ただ、喩えようもない虚無と徒労感が少年の心を縛り付けている。

「やっぱり、無理なのかな」

結局望まなかった力。
かつて選ばなかった道。

だが、その力は今は少年の意志と関係なくその身に宿り、否応無く精神と身体を蹂躙していった。
もはやこの力からは逃げられぬ。
そして少年は決意して、一つの目的の為に再びその道を歩み始めた。

もう引き返せない。
引き返すつもりも無い。

でも、その力をもってしても、救えない者がいる。

(持田……)

結局、少年の 明日夢の叫びも想いも、「彼女」にはとどかなかった。

結局彼女は
月光を背に、彼の前から姿を消した。

これで何度目だ。

鉛のように重い腕にわずかに力をこめる。
でも、情けないほどに力が入らなかった。
それが明日夢には悔しい。

「なら、止めろよ」

白銀の少年、京介は突き放すように言って明日夢の背に己が体重をかける。

「持田のことは俺たちに任せて、お前はお前の生き方に戻れ。
 お前は…『鬼』じゃないんだから
 それに──朝日は月には追いつけない。
 月が太陽を隠すことはあっても、な」

それは残酷な言い方だが、彼なりの心遣いだったのだろう。
このまま戦いに身を投じていけば、明日夢のもつ『輝き』が消えて『鬼』の暗黒面に侵されてしまうかもしれない。
そんな心配からでた言葉だった。

でも

「何もしないなんて、俺にはもう出来ない。
 鬼の力に怯えて、何もしないで、誰も助けられなくて
 そんな生き方は、もう出来ない
 たとえまがい物でも、今の俺は『鬼』なんだ」

「『力』だけは、な」

友の──京介のその言葉に、明日夢は唇をかみ締めた。
そんな事は分っている。
今の自分は戦う『力』は持っていても、戦う『術(すべ)』を知らない。

只ひたすらに がむしゃらに 
戦いという非日常に身をおいてきただけだ。
傷付いて痛みと恐怖に襲われながらも、それを怒りと幼馴染への想いに変えて。

その先に、どんな結末が待ち受けているのか。
考えるのが怖い。
怖いから、動く。
怖いから、理由が欲しい。

自分が自分でいられるように。

「安心しろよ。
 持田を助けたいのは俺も同じだ」

そんな明日夢をまるで励ますかのように、京介の口調が優しいものに変わった。

「俺だって、あいつのあんな姿はもう見たくない。
 ……それに──」

そこで京介の言葉が不意に途切れた。
なにか、言いたげな 歯切れの悪い口調。京介にしては珍しいことだ。

明日夢が「?」という表情で京介を振り返ろうとした時。

「おーおー。 また派手にやったなぁ、お前ら」

振り向いた明日夢の視線の先に、一人の男がいつの間にか無造作に歩み寄って来ていた。
こんな人気の無い、暗闇に包まれた山中を平然と来る人物と言えば──

「ヒビキさん!」

「よっ お疲れ」

いつもの敬礼を返して、ヒビキが穏やかな笑みを浮かべていた。
そして慌てて立ち上がろうとした二人の『弟子』を手で制して、「どっこいしょ」と言いながら二人の側に座り込む。

途端、表情がかすかに険しくなった。
それを見て、二人の表情が僅かに引きつる。

「……いや、あの──怒ってます?」

恐る恐る明日夢はヒビキに尋ねてみた。
『不用意にに動くな』と釘を刺されていたにも係わらず、二人は独断で飛び出していったのだ。
叱責を受けるのは当然のことだろう。

だがその問いに返ってきたのは。

「へ?」

意外、という表情で明日夢を見つめ返すヒビキの顔であった。

「なんで?」

そう問い返されて、二人は安堵と困惑が入り混じった奇妙な表情で思わず顔を合わせた。

──どうやら座った時に「どっこいしょ」なぞと言ってしまったことに、ちょっとした後悔をしてしまったらしい。

とは言えそれも無理も無い。
明日夢がさらわれたあの事件でヒビキは致命的な重症を負ってしまい、今は『鬼』になるのが困難な状態になってしまったのだ。
無論リハビリは続けているのだが──

「いや、ちょいとオヤジ臭くなったなぁとか思っちゃってさ」

そう言いながらヒビキは明るく笑ってみせ、穏やかな表情で月を見上げた。

「──月って、遠いよなぁ。
 あんなにはっきり見えてるのにさ」

自分達の会話を聞いていたのだろうか。
二人は目を合わせると、また夜空を見上げた。

「でもな、40年も前に人間はあそこまでいったんだぜ?」

「アポロ計画のことですよね? アメリカの……」

京介の補足に、ヒビキはうなずいてみせた。

「そう。
 人間って凄いよな。夢があって、それを実現しようと努力して、
 それを成功させてしまうんだから。
 でもさ、それって一人の人間の力だけじゃないんだよな。
 宇宙に行く人間と、人間を月に送るために大勢の人間ががんばって。
 そして、人間は月にいくことが出来た」

そう言って、ヒビキは明日夢に笑顔を向ける。

「人間は、一人で何かをやり遂げたり、生きていけるほど強くないんだよ。多分。
 自分が知らないところで、自分が気がつかないところで
 誰かの助けを受けて生きていくんだ。

 自分ががんばっているから、それを助けてくれる人が居る。

 がんばっている人間がいるから、自分もがんばってみようと思える。

 そうしたら、人間はどんなことだって出来るんだ。
 ──少なくとも、今の俺はそう思ってる。
 だから」

ヒビキは親指で後ろの森を指した。
すると森の奥の方から声が届いてくる。

「おおい! 明日夢ーっ!」

「京介君、居るのか?! 返事をしてくれ!」

「安達君、安達君ーっ!」

「生きてるなら返事しやがれ、クソガキ共!」

「怒らないから出て来〜い」

な? という表情でヒビキは悪戯っぽく笑ってみせた。

「お前らが飛び出していったってんで、
 非番の連中や近くの連中総出で駆けつけてきたんだぜ?」

二人は唖然として森を見つめ続けた。
すると程なくして、見知った顔ぶれが次々と森の中から現れてくる。

「轟鬼さん 威吹鬼さん あきらさん……それに」

弾鬼が裁鬼が
「たちばな」の仲間達が二人とヒビキを見つけて
笑いながら、怒りながら
そして泣きながら
駆け寄ってくる。

「お前一人で背負い込むなよ、明日夢」

草と土を払いながらヒビキは立ち上がり、明日夢の肩を優しく叩く。

「連中と──俺たちと一緒なら、きっと、月に手が届く日が来るから」

「……はい」

明日夢も立ち上がって駆け寄ってくる仲間達にぺこりと頭をさげた。

そして、もう一度月を振り仰ぐ。

(そういえば、あの時もこんな月だった……)

明日夢は思い返していた。
自分が『鬼』となって仲間達に牙を剥いたあの夜のことを。

あれ以来、月夜を見るたびに明日夢にとって忌わしい思い出が蘇り、明日夢を苦しめた。

でも、今は 

(俺はきっと取り戻してみせる)

そう、自分は一人ではない。
その事に今まで気付けなかったけれど。


空が白みはじめ、太陽の光が暗い夜空を赤く染め始めていく。

その暁の光を背に、少年は仲間達に向けて歩みを進めた。


[ 2007/09/06 22:06 ] 『来たる稀人』篇 | TB(0) | CM(2)
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【私響鬼:三十之巻〜最終之巻】
 三澤未命氏(Takenoko氏)による、二十九之巻までの雰囲気を残し、三十之巻以降書かれた私設小説。
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